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日本が主導する脱炭素の地域連携枠組みであるアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)は、東南アジアのパートナー国による温室効果ガス排出削減、エネルギー安全保障、経済成長の実現を支援することを目的としています。この枠組みが始まってからの数年を分析したところ、これまでの実績については評価が分かれます。クリーンエネルギーへの移行に必要な再エネのプロジェクトや施策は、初期段階で有意義な進展が見られるものの、化石燃料プロジェクトが多数含まれている点が懸念されます。2025年10月のAZEC首脳会合・閣僚会合は、再エネやクリーンエネルギーへの取り組みを拡大するチャンスであり、それはAZECが表明済みの目標を達成し、パートナー国のクリーンエネルギー計画やネットゼロ計画を支援するための鍵を握っています。
東南アジアは、2035年までの世界のエネルギー需要増加の4分の1以上を占める見通しです。これらの国々のネットゼロ目標を達成するためには、新規発電容量への投資の大部分を再エネ電源に振り向ける必要があります。
東南アジア諸国がそれぞれのエネルギートランジション(移行)目標達成と、エネルギー安全保障強化を確実に実現するうえで、AZECなどの枠組みによる支援が欠かせません。2023年に日本の主導で発足したAZECは現在、OECDから2カ国(日本、オーストラリア)と、ASEANから9カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)の計11カ国がパートナー国として参加しています。
この連携枠組みの中核的な機能の1つに、具体的プロジェクトの促進が挙げられます。こうしたAZEC関連の協力協定は、AZEC首脳会合・閣僚会合で公表されます。最新の協定については、2025年10月後半に開催予定の第3回AZEC首脳会合・閣僚会合の場で発表される見通しです。
主な分析結果
2023年から2024年にかけて日本と東南アジアのパートナー国の間で締結された協定約190件について分析したところ、次のことがわかりました。
- これまでの協定の約9%が確定済みの再エネプロジェクトの推進に重点:発電または自家エネルギー消費向けの、太陽光、風力、地熱、水力の利用、グリーン水素やグリーンアンモニアの単独使用。
- これとは別に約15%の協定が、再エネ促進の他の側面に関連:主に先行き不透明な初期段階での資源調査、代替燃料サプライチェーン、ロードマップや資金調達に関する協力など。
- 協定には、確定済みの再エネ発電や再エネ利用のプロジェクトがAZECパートナー国全体で17件あり、このうちインドネシアが8件、ベトナムが4件となっています。プロジェクトのタイプは国ごとの状況によって異なり、インドネシアの地熱プロジェクトは、同国の地熱資源の大きな可能性を反映しており、同様にベトナムやフィリピンでは風力のポテンシャルが高くなっています。一方、地域全体で太陽光には多大な可能性と発電容量追加計画があるにもかかわらず、太陽光に特化した具体的プロジェクトを含む協定が締結されたのは、わずか4カ国にとどまりました。
- ほかにも協定に盛り込まれた施策としては、エネルギー貯蔵、電力系統改善、温室効果ガス算定システム、クライメートスマート・アグリカルチャー(気候変動対応型農業)などがあります。
- 協定では、さまざまな化石燃料プロジェクトも対象としています。その中には、上流の燃料生産、新規の化石燃料発電、アンモニア混焼などの新技術を生かした既存化石燃料発電所の排出量削減の取り組みが含まれます。
私たちは、AZECの連携枠組みでの日本とASEANパートナー国の協力にとどまらず、オーストラリアのこれまでの役割にも着目しました。今後、オーストラリアは、この枠組みへの貢献や、新産業政策「フューチャー・メード・イン・オーストラリア(Future Made in Australia)」などの計画で打ち出されたクリーンエネルギー施策の促進において、積極的な役割を果たす可能性があります。

インドネシアは、日本との間で、AZEC関連協定を最も多く締結しています。
インドネシアの電力・エネルギー利用関連のAZECプロジェクト17件中、合計8件が再エネに特化していることがわかりました。特に、インドネシアの地熱発電プロジェクト3件に対するAZECの支援で進展が見られます。一方、新規発電容量を追加するうえで、インドネシアの優先事項に位置付けられる太陽光に重点を置いた協定は、依然として自家消費にとどまっています。
これに対し、インドネシアのプロジェクト17件のうち、7件は化石燃料を利用しています。これには、代替燃料と石炭・ガスの混焼など、既存の火力発電所への対策実施に向けた事業化調査や現在進行中の試験が含まれます。ガス発電所新設についても調査が進められています。こうしたプロジェクトでは、高コスト、排出量削減の不十分な成果、エネルギー安全保障を脅かす事態など、インドネシアがさまざまなリスクにさらされる可能性があります。残る2件は、廃棄物からのエネルギー回収プロジェクトです。
AZECの施策をさらに強化
AZECが、パートナー国によるクリーンエネルギートランジション目標とエネルギー安全保障上のニーズを効率よく確実に支援しながら、すでに表明している1.5°C目標とゼロエミッション目標を達成するために、関係国が検討できる事項は次のとおりです。
- 1.5°C目標と2030年までの再エネ設備容量3倍増の目標に従って、パートナー国のエネルギートランジション目標やAZEC全体の排出量削減の取り組みと明確な整合性があるクリーン施策の支援を優先する。
- インフラやサービスの整備、「ASEANパワーグリッド」開発推進の支援に重点を置いたプロジェクトを強化する。
- エネルギー効率化計画、再エネ施策へのAZECの支援、AZECによる再エネに特化した組織的なリソース確保を強化する。
- 他のエネルギートランジション計画との連携を図る。
- 第三者機関による外部評価体制の確立、透明性向上、アクセスの改善、幅広く開かれた参加条件の整備など、AZECの組織的取り組みを構築する。
- AZECのプロジェクトとして公的な資金助成を受けるうえで求められる基準を策定・明確化する。発表済みの化石燃料関連プロジェクトを対象とした気候安全対策を講じる。地熱・水力を中心とした再エネプロジェクト向けの社会・環境セーフガードを確保する。
注:ブリーフィングで提示する分析は、新たな協定の発表に伴って更新されます。追加の国別分析は今後公表予定です。
ブリーフィング全文(英語)はこちらから。