【解説】石炭火力発電におけるアンモニア混焼は、欠陥のあるアプローチだと言える理由

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夜の碧南火力発電所の様子。 出展:名古屋太郎、Wikimedia Commons

日本政府と石炭業界は、石炭火力発電所においてアンモニアを混焼燃料として利用することにより二酸化炭素排出を削減できるとして、これを脱炭素に向けた戦略として推進しています。しかし、アンモニア混焼には、排出量削減力、コスト競争力、さらに大規模展開における技術的実現可能性の面においても限界があります。そのため、世界の気温上昇を1.5°C未満に抑えるための道筋とは相容れないものがあります。確固たる排出量削減規制のない中、混焼に期待を託しているうちに、ゼロエミッションを実現できる既存の選択肢、しかも実行可能で大規模展開も可能な技術的選択肢の導入が遅れてしまうかもしれません。本記事では、日本が掲げる脱炭素に向けた戦略としての限界やリスクに焦点を当て、混焼について解説します。

アンモニア混焼とは

混焼とは、燃焼に用いる石炭の一部をアンモニアに置き換えることを指します。アンモニアを燃やせるように発電所を改修すれば、アンモニアと石炭とを混焼させ、発電を行うことができます。「混焼率」は、エネルギー量の割合を示す用語です。例えば、混焼率20%とは、エネルギー量で石炭の20%をアンモニアに置き換えることを意味します。

水素の誘導体のひとつであるアンモニアは、肥料や化学原料として直接利用できるだけでなく、エネルギーキャリアとして使うこともできます。

  • グレーアンモニアは、化石燃料の天然ガスや石炭から生産された水素を用いて製造されるアンモニアを指します。
  • ブルーアンモニアは、化石燃料由来の水素を用いる点は同じですが、製造時に合わせて二酸化炭素の回収・貯留(CCS)を行って製造されたアンモニアを指します。
  • グリーンアンモニアは、再生可能エネルギーによって発電された電力余剰分を電気分解し水素に変換したのち、それを用いて製造されたものを指します。

アンモニアは、燃焼時に二酸化炭素を直接排出しないため、低炭素燃料と提唱されています。しかし、アンモニア混焼が、電力セクターの急速な脱炭素化に貢献できるほどの規模、スピード、そしてコストで展開できるか、また電力セクターの炭素強度を十分に下げられるのかと言えば、その可能性は低いと思われます。

アンモニア混焼が重要視されている理由

アンモニアと石炭の混焼は、比較的新しい技術であり、商業規模での実証は済んでいません。にもかかわらず、近年、石炭火力発電所を廃止せずに石炭火力発電所からの排出量を削減する手段として、アンモニア混焼への関心が高まっています。中でも日本は、電力セクターの脱炭素化戦略のひとつとして、日本国内および東南アジア全域でアンモニア混焼を推進しています。

アンモニア混焼のリスク

アンモニアと石炭の比率を20:80として発電所を稼働させる実証プロジェクトが、現在実施されています。日本は、将来的には混焼率50%を、最終的にはアンモニア100%での発電を目指しています。しかし、その目標が実現できる可能性については、多くの懸念点が挙げられます。

アンモニア混焼には、以下のような、いくつかの限界およびリスクがあります。

  • 排出量の直接削減能力は限定的:英シンクタンクTransitionZeroの分析によると、アンモニア20%混焼の石炭火力発電所では、国際エネルギー機関(IEA)が発表した2030年ネットゼロ・シナリオで示される送電網の排出強度基準の5倍に当たる温室効果ガスを排出、混焼率50%の石炭火力発電所では、同基準の3倍排出することが明らかになっています。
  • ライフサイクル排出量増加のリスク: アンモニア製造のライフサイクル排出量は、使用する原料によって変わります。例えば、排出削減対策を講じられていない石炭からアンモニアを製造すると、そのアンモニアの内包排出量(embedded emissions)は、石炭の直接燃焼時の排出量の2倍に相当します。アンモニア混焼は、ブルー、またはグリーンアンモニアを使用しない限り、正味排出量の削減にはつながりません。
  • 高いコスト:TransitionZeroによると、従来型の石炭火力発電所をアンモニア20%での混焼に切り替えると、最も価格の安いグレーアンモニアを使用した場合でも、燃料費は2倍になるとしています。また、Bloomberg NEFの分析によると、ブルーまたはグリーンアンモニアを高い比率で用いる混焼の場合、再生可能エネルギーよりもコストが高いことが分かっています。
  • 混焼を可能にする改修を行えば、その費用を回収するために、石炭火力発電所を長期間運転し続ける可能性が高くなりますIEAは、電力セクターの脱炭素化を実現するには、排出削減未対策の石炭火力発電を、OECD諸国では2030年までに、全世界的には2040年までに段階的に廃止する必要があることを明言しています。混焼を行うことを約束することによって、このような排出削減対策が講じられていない石炭火力発電所を運転し続けると、気温上昇を1.5°C未満に抑えるという目標が達成できなくなるおそれがあります。

こうしたリスクを軽減する確固たる排出量削減規制を行わず、混焼に期待を託しているうちに、風力や太陽光など、ゼロエミッションを実現できる、実行可能で大規模展開が可能な選択肢の導入が遅れてしまうかもしれません。

グリーンアンモニアのより良い使い道

電力セクターでの利用に上記のような限界があることに加え、アンモニアを混焼に用いてしまうと、以下の工業セクターでも有効活用できるグリーンアンモニアの供給を奪ってしまう可能性があります。

  • 現在の化石燃料由来アンモニアの代替。アンモニアは、工業生産されている中で、最も排出量の多い商品のひとつです。IEAによると、現在製造されているアンモニアの70%が肥料用、残りが工業用に利用されています。そのほぼ全てが、グレーアンモニアです。現在のグレーアンモニアへの需要をグリーンアンモニアで代替するために、グリーンアンモニアの生産を優先していく必要があります。
  • 排出削減対策が困難な(hard-to-abate)セクターの脱炭素化。グリーンアンモニアを化石燃料の代替品として利用すれば、重工業(セメント、鉄鋼、プラスチックなど)や海運・航空など、電化が難しく、排出削減が困難なセクターの排出量を削減することができます。

アンモニアのこのような利用法は、石炭との混焼よりも気候変動対策としての効果がはるかに大きいと言えます。したがって、石炭との混焼は、結局のところ日本、東南アジアなどにおけるクリーンエネルギーへの移行を遅らせる懸念があります。

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