日本が主導する脱炭素の地域連携枠組みであるアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)。2026年に入り、AZECを取り巻く状況は大きく変化しています。日本が燃料の安定供給に重点を置く一方、多くのパートナー国はクリーンエネルギーの導入をさらに加速させたいと考えています。その一つが、今年のAZEC首脳会合・閣僚会合の開催国であるフィリピンです。フィリピンを対象とした最新のケーススタディは、電力系統の整備やクリーンエネルギーの導入拡大において、AZECを通じた協力の余地が大きいことを示しています。
東南アジア諸国は、事実上のホルムズ海峡封鎖と、その結果生じたエネルギー市場危機で深刻な影響を受けています。日本はこの危機を受け、AZECイニシアチブの更新を発表し、エネルギー強靭化を中核に据えた「AZEC 2.0」、及びパートナー国のエネルギー調達を支援する金融面での協力パッケージとして、100億ドル規模の「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ」、通称「POWERR Asia(パワー・アジア)」構想を立ち上げました。目下の危機への対応に追われる国々への資金支援は歓迎すべきですが、その一方で、今回の発表を受け、同構想が短期・長期の双方で化石燃料を軸とした方策に偏りかねないという懸念も生じています。
こうした変化の中でも、日本とパートナー国間の具体的なプロジェクトや投資の促進が、引き続きAZECの中核的な役割を担うことに変わりはありません。AZECの案件につき2025年に当団体が発表した最初の分析では、こうした案件の内容が国ごとに大きく異なる実態が浮かび上がりました。
今回新たに実施した分析では、2026年のAZEC首脳会合・閣僚会合開催国であるフィリピンにスポットライトを当てました。
フィリピンにおけるAZEC:進捗は限定的だが、潜在力を成果につなげられるか
2026年のAZEC首脳会合・閣僚会合開催国であるフィリピンは、AZEC関連協定の件数が5番目に多く、2023年から2025年の間に33件の協定を発表しました。同国は再生可能エネルギーや電力系統の刷新・最適化をはじめとする日本の技術にしばしば高い関心を寄せており、その技術が輸入化石燃料への依存度を低減し、エネルギー安全保障を強化するための鍵になると見込んでいます。
フィリピンのエネルギー計画では、2050年までに、発電容量における新規追加分のうち80%以上を再エネで賄うことを目指しており、エネルギー危機への対応策として再エネ開発が急ピッチで進められています。また、クリーンエネルギー導入を加速させたシナリオも現在策定中です。一方で、当団体の分析によれば、クリーンエネルギー分野における同国のAZEC関連協定はごくわずかに留まっています。
これまでのところ、AZECを通じて日本とフィリピンが締結した覚書(MOU)33件のうち、大半は農業と土地利用に重点を置いています。再エネを主な対象とするMOUはわずか2件で、具体的な再エネ発電プロジェクトに関するものはそのうち1件にとどまります。ただし、この1件は、東南アジアでも有数の規模を誇る陸上風力発電プロジェクトに数えられる重要なもので、現時点では103.5MWの出力が計画されています。そしてもう1件は、今後の再エネプロジェクトの資金調達の検討するものです。

出所:AZECを通じてフィリピンが締結したMOUの協力分野の内訳。2023年から2025年にかけて日本とフィリピンが締結・公表したAZEC関連のMOUをE3Gが分析。
AZECの他のパートナー国では、太陽光発電、地熱発電、水力発電、工業団地の脱炭素化、産業施設でのグリーン水素やグリーンアンモニアの使用などの技術分野で、日本とのプロジェクトが実施されています。このようなクリーンエネルギー技術はフィリピンでも適用可能であり、日本はフィリピンでも今後クリーンエネルギー技術に特化したより多くのMOUを日本が支援できるはずです。
2023年から2025年までに締結されたMOUに関しては、化石燃料プロジェクトの支援を明示した案件は確認されていません。しかし、両国間で協力が見込まれる分野として、LNGへの言及があります。一定の管理下で石炭の段階的廃止を促進するためにカーボンクレジットの利用を検討するMOUもありますが、対象施設の候補に詳細は明らかにされていません。
日本の公的金融機関や民間金融機関もフィリピンの関係機関とMOUを締結しているものの、これまでに公表されているMOUには、これらの金融機関による資金供給に関する情報は明記されていません。
提言
AZECによるフィリピンの電力部門の脱炭素化支援を強化する余地は十分あります。フィリピンは、輸入燃料への依存度の低減、電力系統インフラの刷新・最適化、再エネやエネルギー貯蔵の大幅な拡大を計画しており、日本はこうしたニーズに応える提案が求められます。
日本とフィリピンが今後進めるべき取り組みとして、以下が挙げられます。
- 電力系統の整備・刷新・最適化分野における日本の強みを、今後の協力案件で優先的に活用する。
- 化石燃料の供給・価格を巡る不確実性が続く中、輸入燃料への依存度低減に向け、短・中期的に実施可能な施策を検討する。その一環として、タイのAZEC-SAVEと同様の省エネ推進プログラムをフィリピンで立ち上げることを検討する。
- フィリピンの再エネ開発目標に沿って、クリーン電力分野の支援を拡充し、支援対象となる再エネプロジェクトの幅を広げる。特に、営農型太陽光発電や地熱発電への支援を検討する。
- 「戦略17分野」の官民投資ロードマップに示された日本の洋上風力発電技術の輸出構想を踏まえ、風力発電案件の追加を検討する。また、風力発電の開発を進める他AZEC参加国と知見や経験を共有する。
- POWERR Asia構想を通じたエネルギー危機対応の資金協力では、化石燃料依存度を低減する施策を支援する。新たな化石燃料関連インフラへの投資によって長期的な依存を固定化する案件は、支援対象から除外する
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